「大村が、なんか好き。」

その「なんか」は、観光パンフレットには載りません。有名な場所があるからでも、便利だからでもない。ここで誰と出会ったか、どんな景色を一緒に見たか、どんな大人たちがまちのことを本気で面白がっていたか。

そんな小さな記憶の積み重ねが、いつか「大村が、なんか好き」という感覚になるのだと思います。9月23日、西九州新幹線「かもめ」の開業4周年。今年も朝いちばんのかもめに、みんなで手を振りました。

おてふりは、たった数秒の出来事です。でも私がつくりたいのは、その数秒だけではありません。

※アイキャッチと記事内の画像は、9月23日当日の様子です。

赤い服や旗で集まった西九州新幹線かもめ4周年のおてふり参加者たち
世代も立場も越えて、今年もたくさんの人が集まりました。写真提供:満井義万さん

同じ方向を向く、ということ

朝6時15分。鉄道が好きな人も、子どもに誘われて来た人も、地域で活動している人も、「なんか楽しそう」と来てくれた人もいる。年齢も仕事も、普段いる場所も違います。

たぶん、考えていることも、大事にしていることも、それぞれ違う。それでも、田んぼの向こうに白い車体が見えた瞬間、みんなが同じ方向を向きます。旗を振る人、両手を振る人、写真を撮る人、子どもの隣で笑っている人。

同じことをしなくてもいいし、同じ考えにならなくてもいい。ただ同じ場所で、同じ景色を見て、「来た!」とうれしくなる。その時間には、普段なら出会わなかった人たちのあいだに、ほんの少しだけ関係が生まれます。私は、そこに地域の可能性を感じています。

西九州新幹線かもめに向かって線路沿いから手を振る参加者たち
かもめが来た瞬間、みんなの手と気持ちが同じ方向へ。写真提供:満井義万さん

価値観の交流は、意見をそろえることではない

「価値観の交流」というと、難しい話をしたり、互いの考えを説明し合ったりすることを想像するかもしれません。でも、本当はもっとささやかなものではないでしょうか。自分には関係がないと思っていたものを、誰かが夢中になっている姿を通して、少し気になるようになる。

鉄道が好きな人を見て、「そんな見方があるんだ」と知る。子どもの目線にしゃがんでみて、大人には見えていなかった景色に気づく。知らない人と「見えましたね」と笑い合う。

相手と同じになるのではなく、相手が大切にしているものを、少しだけ想像できるようになる。その小さな変化が、価値観の交流なのだと思います。

いろんな人が集まる場所には、ひとつの正解がありません。だからこそ、自分とは違う人と同じ時間を過ごせる。地域のつながりは、立派な会議や大きな事業だけで生まれるものではなく、こういう「一緒にいて、なんとなく楽しかった」という時間からも育っていきます。

子どもたちに渡したいのは、答えではなく記憶

子どもたちに「地元を好きになりなさい」と言っても、きっと好きにはなりません。地域への愛着は、教え込むものではないからです。

でも、自分の暮らすまちで、大人たちが本気で手を振っていたこと。知らない大人が笑いかけてくれたこと。窓の向こうから手を振り返してもらったことや、朝早く起きて出かけた日の空気。

田んぼと線路に向かって旗を掲げる子どもと大人たち
子どもも大人も、同じ景色のなかで手を振る。その時間が地域の記憶になっていく。写真提供:満井義万さん

そんな身体のなかに残る記憶は、渡すことができます。そしていつか大村を離れたとき、ふと思い出してほしい。「そういえば、あのまちでは、大人たちが朝から新幹線に手を振っていたな」と。

そのとき、大村が「生まれ育った場所」という情報ではなく、「自分もあの景色の一部だった」と感じられる場所になっていたら。それは、帰ってくる理由になるかもしれない。離れた場所から応援する理由や、誰かに大村のことを話したくなる理由になるかもしれません。

「大村が、なんか好き」が残るか

以前、北陸新幹線の開業を経験された庄田さんが、開業後の地域について話されていました。

1年目は「浮かれ客」が来る。
2年目は「本物客」が来る。
3年目は「ファン客」が来る。
4年目は「リピーター客」が来る。
5年目は、へたをすると「開業前に戻る」。

これは観光客の話だけではなく、地元に暮らす私たちの関わり方にも言えるのではないかと思います。開業という大きな出来事があれば、人は集まります。でも、ニュースではなくなったあとも、その場所を面白がる人がいるか、関わり続ける人がいるか、次の誰かを連れてくる人がいるか。

4周年の今年、集まってくれた人は昨年の倍になりました。人数が増えたこともうれしい。でも、もっと心に残ったのは、「また来たよ」と戻ってきてくれる人がいたことと、初めての誰かを連れてきてくれたことです。

人が人を呼ぶのは、イベントの情報だけが届いたからではありません。そこで感じたものを、誰かに渡したくなったからだと思うのです。

手を振ることから、まちはつながる

おてふりのあとは、そのまま大村駅の「ちいさな鉄道まつり」へ。Nゲージを走らせ、缶バッジをつくり、最後は「ふたつ星4047」を見送りました。

アンケートには、「朝のお手ふりのあとに伺いました」「かもめの聖地旗振りも楽しかったです」という言葉もありました。朝の田んぼと、大村駅。別々の場所で起きた小さな出来事が、人を通してつながっていきます。

地域をつくるとは、何か大きなものを新しくつくることだけではないのだと思います。すでにここにある景色を、誰かと一緒に面白がること。好きな人が「好き」と言える場所をつくり、その気持ちに別の誰かが触れられる余白をつくること。

おてふりは、新幹線を見送るためだけの活動ではありません。いろんな人が集まり、価値観がふれ合い、子どもたちのなかに地域の記憶が残っていく。たった数秒、手を振ることから始まる、地域のつながりです。

「大村が、なんか好き。」

その「なんか」を、これからもみんなと一緒につくっていきたいと思います。朝早くから集まってくださったみなさん、本当にありがとうございました。

田んぼと線路を背景に、赤い服と旗で西九州新幹線かもめを待つ子どもと大人
子どもたちと一緒に手を振った朝。この景色も、いつか「大村が、なんか好き」という記憶になる。

西九州新幹線「かもめ」
おめでとう!

5周年もまた会いましょう。

事前案内:西九州新幹線「かもめ」開業4周年のおてふり
大村市「新幹線が見える丘公園」